光のメガリス 第三話
しばらく、二人は無言だった。
一定ごとに、マリクが「近くに敵はいないようです」と告げるのみである。
タイラーは用心深く歩みを進めながらも、この男の腹が読もうとしていた。
(さすがに、用心深いな・・・・・・)
二手に分かれる時、マリクはあっけないほど簡単に、タイラーと行くことを選んだ。確かにコーデリアとラベールは、ウィルと一緒に行くといって聞かなかったが、ここまであっさりとなると、むしろ怪しい。
(むしろ、邪魔者が減ったってか?なめられたもんだ・・・・・・)
「タイラーさん」
呼び止められ、タイラーは歩みを止める。
「あなたは、アレクセイ・ゼルゲンという男を知っていますね?」
「知っている。だからどうした?」
タイラーは平然と答えた。自分の感情など、制御しようと思えばどうとでもなる。マリクは、薄気味悪い笑いを崩さぬまま、試すように言った。
「彼が私の弟だとしたら、あなたはどうします?」
「さてな」
表面上は平然を装ってはいたが、タイラーは冷や汗が出そうだった。しかしそれよりも、その可能性を考え付く事が出来なかった、自分自身への憤りが沸き起こる。
「もう、十年以上も前の事ですし、私は弟を殺された事を恨んではいません。むしろ、あれだけの事をしでかして、許してくれという方がおかしいですしね」
「貴様・・・・・・何故、その事を知っている!!?」
そこまできて、タイラーは叫んだ。アレクセイの最後を知っているのは、誰もいない。ウィルの攻撃がエッグを弾き飛ばし、支配から逃れたモンスターが暴れだして、アレクセイが崖から落ちた。それが、奴を最後に見た時だったが、あの時その場にいなかった、マリクがそのことを知っているわけがない。
マリクは一瞬口を押さえ、今までにはない鋭い表情をすると、ちっと、舌を鳴らした。
「まさか・・・・・・!!!」
タイラーが拳を握り締めると、マリクは一歩後ろへと下がる。
「待て!!」
くるりと逃げようとしたマリクに、タイラーは斧を投げつけた。
しかしマリクは、驚異的な瞬発力で高く飛び上がり、それをかわす。術だけではなく、体力もかなり優れていたのだろう。何故、それを今まで隠していたのかは、その右手に光る卵型のクヴェルが教えてくれた。
「貴様――――――!!!」
「フッフッ・・・・・・」
マリクが含み笑いを一つすると、その瞬間にタイラーとマリクの間に壁が出現した。
「ここは、エッグのために存在するメガリス!!私の思うがままなんだ!!!」
エッグに取り付かれた、その男は、突然狂ったように叫びだし、奥へと消えていく。まるで、奥へたどり着くための道順を知っているかのように。
(くそぉ、すまん・・・・・・ウィル!)
タイラーは、なすすべもなく、突然後ろから出現した敵に斧を向けた。
(一体、僕が何をしたんだろうか・・・・・・)
タイラーがやや自嘲気味になっていたその頃、ウィルは少女二人の間に挟まり、ひじょ〜に肩身の狭い思いをしていた。
とりあえず、二人の肩が必要以上に自分と密着しているのは、間違いない。そして、頭の後ろで、何か、殺気立った火花が飛び散っているような気もする。
さらに言ってしまえば、隙あらば自分の手を握ろうとしてくるようなこの二人の手のしぐさは、気のせいだろうか?
解ってはいたのだ。こうなる事は。今までもそうだったし、何より自分が原因なのだから。しかし、いくらなんでもこの状況で・・・・・・。
「ウィル、敵がきたら守ってあげるからね!!」
「ウィル、敵がきたら守ってね!!」
対照的な事を言って、にらみ合うコーデリアとラベール。言葉の裏に隠されている感情が、簡単に読み取れる。
(私は、ウィルに迷惑を掛けるほどか弱い女じゃないわ!!)
(なーに?男を守る女なんて、むしろ気が強すぎるんじゃないかしら?)
・・・・・・などと、目で通話しているのだろう。
いくら進んでも、敵が出てこないというのも、争いを大きくしている原因の一つだ。これでやや強めのモンスターでも出てきてくれれば、二人のいい八つ当たりの相手になるのだが。
と、かなり自分勝手な事を考えていた事に気付き、ウィルは現実を見る事にした。
今は、なんとかこの状況を抜け出さなければならない。そのためには、まず、話題を変えることだ。
「タイラーさん、平気でしょうか・・・・・・?」
「え?」
「うーん・・・・・・。まあよほどの事がない限り、大丈夫なんじゃないかしら?」
二人はようやくいがみ合うのを止めたようだ。少しほっとした。が、それも一瞬。次に何の話題を出していいのか、ウィルは迷った。
「・・・・・・ウィル」
「え。何?」
突然、心配そうな表情をしたラベールに、ウィルは振り返る。
「嫌な感じがするの」
「・・・・・・嫌な感じって?」
「私にもよく分からないんだけど、何だか・・・・・・その、兄さんの時と、同じような感じなの。メガリス全体から、怖いほどのアニマが出ているっていうか・・・・・・」
言われてみて、ウィルも気付いた。このメガリス全体のアニマが、目まぐるしく動いているような気配を。コーデリアも、ふと辺りを見上げている。
「急いで奥に行こう。何か、とんでもない事が起こりそうだ」
突然の変化だった。先ほどまでは、メガリスのアニマさえ感じ取れない状態だったのに。
(マリク・・・・・・あの人のアニマが、奴のアニマに似ていた・・・・・・・・・)
頭に浮かんだ懸念を吹き飛ばし、ウィルは先を急いだ。
「ここだ、ここだ・・・・・・」
男は息を切らせながら、メガリスの中心部へと向かう。
そこは、ボールのような形をしており、中心に、妙な絵が描かれている。その周りに、炎、水、樹、石、音、獣のアニマを象徴する絵が彫られていた。
「ふ、あ、あははは・・・・・・」
その、中心の絵の上にエッグを置くと、マリクの手は興奮のあまり、がたがたと震えた。やがて、七つの絵からは、光が生まれだし、エッグを包み込む。
このクヴェルを男が手にしたのは、数年前のことである。
小さい頃から女手一つで自分を育ててくれた母親が、死ぬ直前に言い残した、自分の父と、三人の弟についての事。
それらは別にどうでもいいことだったし、自分も特に会いたいとも思わなかったが、興味はあり、調べてみた。三人とも、すでに行方不明になっており、情報をつかむのにいちいち手間がかかった。町の人に話を聞くたびに、奇妙な目で見られたし、砂漠にある、フォーゲラングという所では、村人総出で尋問じみた質問をされた。
弟のうち、二人はそこで死んだらしい。
悲しいとも別に思わなかったし、むしろ厄介事を持ち込んで来るよりは、死んでくれていたほうがましだった。同時に、とっととこんな面倒臭い人探しは、終わりにしたかった。
年齢的に、自分に一番近い弟が、最後に向かうといっていた場所・・・・・・石切場跡。
危険な場所に、何故その弟がわざわざ行ったのかは解らなかったが、そこで自分は、妙なクヴェルを見つけた。
それは卵形で、まがまがしい光を帯び、黒い色をしていた。
それからだ。自分の人生が大きく狂いだし、誰かの意識が、自分の頭の片隅に感じられるようになって来たのは。
「クックッククククク・・・・・・」
そうだ。もう、そんなことはどうでもいい事だ。これから、自分は力を手に入れられるのだ。誰にも邪魔されない、誰よりも勝る、素晴らしい力を。
男は、にたにたと笑い、目の前のクヴェルに釘付けになっていた。
(この程度の敵で・・・・・・足止めになるとでも思っているのか!!?)
タイラーは斧を押し戻すと同時に敵を叩き切った。血しぶきを上げ、首と胴とが切断される―――――はずだった。
(!!?)
残像のように、それはかき消え、敵の姿は元へと戻る。何事もなかったかのように、モンスターはタイラーの首筋を狙い、噛み付いた。急所ははずしたものの、肩にかけて、たっぷりと肉を剥ぎ取られる。
「くっ!・・・・・・馬鹿な!?」
続いて繰り出された背後からの攻撃を再びタイラーは斧で受け止める。しかし、その隙を付いた攻撃は、またしても宙を切った。
(どうなってるんだ?)
「はっはっはっはっは・・・・・・・・・・・・」
タイラーの頭の中で、マリクの耳障りな声が響いていた。
遊ばれている・・・・・・アレクセイと同じく、絶望的な力の差を見せ付けられたように、タイラーは感じた。
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