光のメガリス 第二話

そこは、本当に何もない場所だった。 ただずっと続く、真っ白な空間。 分かれ道もなく、ただ侵入者を、奥に進めと誘導しているようでもある。 ゆっくりと、侵入者達はそこを歩いていた。 ウィル、コーデリア、ラベール、タイラー、そしてマリクである。 「ウィル・・・・・・さすがに、これはおかしいんじゃない?」  沈黙に耐えられなくなったのか、ラベールが言った。 「メガリスっていうのは、モンスターがいて、クヴェルやツールがあって、奥にはよく解らないものがたくさ んある場所の事じゃないの?少なくとも、氷のメガリスはそうだったし、そうでなくても、古代からずっと 埋まっていたにしては、ここは奇麗過ぎるわよ」 「うん・・・そうだね・・・・・・」  ウィルの声は慎重だった。常に周りの気配をうかがい、アニマを必死で感じ取ろうとしている。 また会話が続かなくなった・・・・・・とラベールはため息をつく。 さっきから、というか、このメガリスに入ってしばらく経ってから、みんなが黙っている。 見れば、ウィルだけではなくタイラーも、さらにコーデリアでさえも、警戒を怠ってはいないではないか。 マリクが、ただ一人、いつもの不気味な薄笑いをしていたが・・・そんなことはどうでもいい。 なんだか、一人だけ残されたような気分になって、ラベールは視線を下におろした。 (なに・・・・・・?何なの!?なんだか、私だけことの重要性を認識していないって感じじゃない!!)  そのラベールの様子に気付いたのか、ウィルが慌てて口を開く。 「あ、いや、別にそんなに重要な事でもないんだ。ただ、用心にこしたことはないってことだよ」  いつも通りの、優しい瞳。ラベールはその顔を見るたびにほっとして、自分の顔にも笑顔が浮かんでく る・・・のだが、その途端、視界の端でコーデリアの表情がこわばったのが確認できた。 ちょっとだけ、勝った気分になる。 「さっきの話だけど、メガリスの中にモンスターが多いっていうのは少し違うんだ。メガリスの中が、モン スターにとって過ごしやすい環境だからっていうのもあるけど、クヴェルやツールがあるからモンスター も集まってくるんだよ」  ウィルの言葉に、うんうんとうなずいたのはラベールだけだった。どうやら、ディガーの中では当然の ことらしい。 「クヴェルやツールが持つ、特別なアニマにモンスターは惹かれるんだ。だから、モンスターがたくさん 棲みついているメガリスには、クヴェルがたくさんあるのが一般的なんだけど・・・・・・」 「モンスターがあまり見かけられない時に、考えられることは二つある。一つは、滅多にないことだが、 クヴェルやツールがあまりなく、そのメガリスもすでにアニマを失い、メガリスとしての機能をなくしてしま っているという時。もう一つは・・・・・・」 「もう一つの可能性が、そこがかなり強力なモンスターが棲みついていて、ただのザコが入ってこれな い時。モンスターだって争うわ。外部からの進入者に対しては、団結して倒す、あるいは追い払おうして いるけれど、普段は生きるために必死なのよ。自分達の種族、いや自分以外の全ては敵だから、モン スターがいなければいないほど、そのモンスターは強力ってことになるわ」  と、三人は口々に説明する。 「ずいぶん奥が深いのね・・・・・・」  しかしながら、ラベールはこんなことに関してはどうも鈍い。こういった話を聞くたびに、彼女はマニア ックな話題だなあ、と感じずにはいられない。  そして、そのせいか、タイラーがものすごい勢いで突撃してきた『それ』に気付いた時にはすでに遅か った。 「敵だ!!」 「「え!!」」 「どけ!」 完全に無防備だったラベールに繰り出された攻撃を、タイラーは斧で受け止めた。そのタイラーに向 かってくるもう一体を、ウィルは杖で弾き飛ばしながらその姿を確認した。  ウィルの2,3倍はあろうかという大蛇のごとく大きい身体に翼を生やし、強靭な皮膚が攻撃を弾き返 す。強力な牙と猛毒を持ったモンスター・・・・・・ナイトサーペント。 ちらり、とウィルの頭にあのシーンが浮かび上がる。しかしウィルはそれを無視し、倒れたラベールの ほうに気を配る。 「ラベール、大丈夫!?」 ウィルの声が聞こえ、彼女はあわてて起き上がると、その影に隠れて見えなかったもう一体が、口を 開けて突進してきていた。いけない、とウィルとラベールが感じた、その刹那――――。 「ラベール、どいて!!」  コーデリアだった。まだ戦闘体形に入っていないラベールと違い、彼女は水のアニマを槍に込め、 それを振りかざす。 「ミズチ!!!」 彼女の槍から蛇を象った術技がほとばしり、ナイトサーペントの口の中を狙う。しかし、直前で口を閉 じたため、致命的なダメージには至らなかった。 「くっ!!」 もう少し早ければ・・・・・・自分がいなければ、コーデリアは口を閉じられるより前に、ナイトサーペント にミズチを当てることが出来たはずだ。ラベールはそう思った。  戦闘でのとっさの判断。ラベールも、ここ数年でウィルと一緒にメガリスの探索に加わったりなどして、 自分でもある程度、ヴィジランツとしてやっていけると思ってはいたが・・・どうやらそれは過大評価だっ たようだ。  やはり、戦闘ではコーデリアの方がウィルの役に立てている。はっきり言って、悔しい。 「ラベール!コーデリア!大丈夫!?」  ウィルは武器を杖から剣に変え、一対一でモンスターと戦っていた。二人が平気な事を確認すると、 隙を見て二人に駆け寄る。 「夜叉横断!!」  タイラーの叫び声がこだまし、なぎ払った斧が首筋を切り裂いた。しかし皮膚は貫通したものの、首を 切断はできていない。ちっ、と舌鳴らしをしてタイラーは斧を手放し、回し蹴りをもう一体に与える。 そしてその刹那、その足元から光が現れた。  タイラーは寸前でそれをかわしたが、モンスターのほうはそうはいかない。 「ハウリングヘヴン!!」 マリクが放った術は、夜叉横断で与えた傷に入り込んだ。ぎやああ、と凄まじい声を上げて、ナイトサ ーペントはもだえる。その隙に、タイラーは首に刺さっていた斧を取った。 「すごい術力・・・・・・」 「へえ、以外にあの二人、息合っているのかな・・・・・・」 「・・・・・・・・・」  ウィルの目がわずかに厳しくなる。今の攻撃は、予測できるものではないだろう。タイラーはあそこで 飛ぶようなそぶりは見せていなかった。それはマリクも同じだし、タイラーも、マリクが術を放つことを予 測できなかったはずである。・・・・・・おそらく避けられるだろう、との考えか、それとも別にタイラーが巻き 込まれようと、巻き込まれまいと、どうでもよかったのか・・・・・・・・・?  いや、今はモンスターと戦う事が先決だろう。 「タイラーさん、マリクさん、いったん集まってください!!」 ナイトサーペントを牽制しながら二人が集まると、ウィルはてきぱきと指示を出す。 「あいつらの力はかなり強力です。一匹ずつ倒していきましょう。どちらかといえば術のほうが効果があ るので、タイラーさんが一匹の注意を引き付けてください。その隙にマリクさんは僕と一緒に術で攻撃を。 それから、コーディーとラベールは後の二匹を引き付けて。あいつらはかなり手ごわいから、一人が一 匹づつ相手をするんじゃなくて、二人で二匹を相手にするようにして、お互いが離れないようにして戦う こと」 「了解!」 「よし・・・・・・こっちだ!!」  タイラーが、不敵な笑みを浮かべながら、斧に回転をかけ、放す。斧は鈍い音を立てながら一体のナ イトサーペントを直撃した。しだいにタイラーは、徐々にその一体を引き付け、離していく。 「今です。マリクさん。あいつに、二人で術を―――――」 「素晴らしいパーティーですね」  ウィルの言葉に、マリクは静かに告げた。 「仲間思いのヴィジランツに、仲間思いのディガー。皆、リーダーの指示を、きっちりと守っている。今の 時代、ここまで美しい信頼関係を築くことが出来るとは。私は感動しましたよ」  まただ・・・・・・また、マリクはうっすらと笑った。何がおかしいというのか。悪意があるわけではない。し かし、さりとてウィル達をあざ笑っているとも―――――思えなかった。 「―――失礼。今は戦いの最中でしたね」  マリクの目の前に、炎のアニマが凝縮される。それは音のアニマの力を受け、渦となって敵に放たれ る。 「ソニックバーナー!!」  炎と音の合成術。ずいぶん珍しい属性だ。しかし威力は強く、たちまちのうちに炎はナイトサーペント を飲み込み、燃え上がっていった。おそらく、炎が消える頃にはモンスターも息絶えているだろう。 「あれ・・・・・・?」  てっきり、もっと抵抗すると思っていたウィルは、拍子抜けしたように口を開いている。 それと同時に、 「活殺獣閃衛!!」 「ウッドストック!!」  みると、コーデリアとラベールが、一人が一体を相手に戦い、とどめの一撃を加えたところだった。 「あ・・・・・・」 「ウィール!!そっちは大丈夫?」 「・・・でも、ウィルが慎重だった割には、案外こいつらたいしたことなかったわね」 駆け寄ってくる二人を見て、ぼそりとタイラーが言った。 「『また』あの時のことを思い出してるのか?」 「・・・・・・!!」 「いい加減忘れろ。俺たちは強くなった。たとえ、もう一度あの時と同じ状況になったとしても・・・・・・今度 は平気だ」 「・・・・・・はい。すいません」  何で謝るんだ、とタイラーは困ったような顔をして、ため息を一つついた。  ウィルたちは再び奥へと進んでいく。モンスターはそれ以降、まったく出現せず、緊張のみが辺りを支 配していった。  ナイトサーペント・・・・・・アレクセイがかつて従えていたモンスター・・・か。  タイラーは、声に出さずにつぶやいた。 コーデリアは、アレクセイの手下にやられた傷が酷かったため、奴と直接戦ってはいない。だから、 ウィルがまた過去の古傷を思い出してしまったことは知らないだろう。ラベールもまた同じだ。  しかし、一体なんだろうか。この悪寒は。 じっくりと辺りを見回してみても、ただ白い空間が目の前にあるだけだ。  何かのアニマではなく、もっと直感的なもの・・・・・・気配や、殺気といったものの類。  そしてその先をたどって行くと―――――そこにはマリクがいた。 (野郎・・・・・・そろそろ、尻尾を出す頃か?) 同時に、今まで一本道だった通路が、二本に分かれている。 一瞬、ウィルとタイラーの眼が合った。それだけでお互いの考えていることは通じ合う。 しかし同時に――――コーデリアとラベールも、視線を合わせていたことに、二人は気付いていなか った。

製作者■リズム■第3話■ □第1話□ □Back